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最高裁判所第一小法廷 平成11年(オ)773号 判決

上告人

増田みさ

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

佐久間信司

被上告人

増田文夫

右訴訟代理人弁護士

川島和男

右訴訟復代理人弁護士

秋保賢一

主文

一  原判決中、原判決別紙物件目録(二)4ないし9、11ないし14、(三)1ないし3記載の各不動産についての更正登記手続請求に関する部分を次のとおり変更する。

第一審判決中右請求に関する部分を次のとおり変更する。

1  上告人増田浩志は、被上告人に対し、原判決別紙物件目録(二)4ないし9記載の各不動産について、被上告人の持分を四分の一とし、真正な登記名義の回復を原因とする所有権一部移転登記手続をせよ。

2  上告人増田浩志は、被上告人に対し、原判決別紙物件目録(二)11ないし14記載の各不動産について、岐阜地方法務局揖斐川出張所平成五年八月五日受付第六五九六号をもってされた所有権保存登記を、被上告人の持分を四分の一、上告人増田浩志の持分を四分の三とする所有権保存登記に更正登記手続をせよ。

3  上告人大澤朋子は、被上告人に対し、原判決別紙物件目録(三)1ないし3記載の各不動産について、被上告人の持分を四分の一とし、真正な登記名義の回復を原因とする所有権一部移転登記手続をせよ。

二  上告人増田みさの上告並びに同増田浩志及び同大澤朋子のその余の上告をいずれも棄却する。

三  第一項の部分に関する訴訟の総費用は、これを五分し、その一を上告人増田浩志及び同大澤朋子の、その余を被上告人の各負担とし、前項の部分に関する上告費用は上告人らの負担とする。

理由

一  上告代理人佐久間信司の上告理由について

民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法三一二条一項又は二項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、理由の不備をいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに右各項に規定する事由に該当しない。

二  職権により、原判決別紙物件目録(二)4ないし9、11ないし14、(三)1ないし3記載の各不動産に関する更正登記手続請求について判断する。

1  原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

(一)  原判決別紙物件目録(二)4及び5記載の各不動産(以下「本件不動産(1)」という。)、同物件目録(二)6ないし9記載の各不動産(以下「本件不動産(2)」という。)同物件目録(二)11ないし14記載の各不動産(以下「本件不動産(3)」という。)及び同物件目録(三)1ないし3記載の各不動産(以下「本件不動産(4)」という。)は、もと増田源吾(以下「源吾」という。)が所有していた。

(二)  源吾は、昭和二七年一月二四日に死亡した。源吾の相続人は、妻増田志やう(昭和五二年九月一一日死亡)、二男増田卓夫(以下「卓夫」という。)、長女藤田美枝子、三男被上告人及び二女広瀬笑子であった。卓夫は、平成五年三月四日に死亡し、上告人らがその相続人である。

(三)  本件不動産(1)については、平成五年八月五日受付により、「昭和二七年一月二四日卓夫相続、平成五年三月四日相続」を原因として、源吾から上告人増田浩志に対する所有権移転登記がされている(以下「本件登記(1)」という。)。本件不動産(2)については、平成五年八月五日受付により、「昭和一九年二月二四日源吾家督相続、昭和二七年一月二四日卓夫相続、平成五年三月四日相続」を原因として、源吾の先代増田かねから上告人増田浩志に対する所有権移転登記がされている(以下「本件登記(2)」という。)。本件不動産(3)については、平成五年八月五日受付により、上告人増田浩志のため所有権保存登記がされている(以下「本件登記(3)」という。)。本件不動産(4)については、平成五年八月五日受付により、「昭和二七年一月二四日卓夫相続、平成五年三月四日相続」を原因として、源吾から上告人大澤朋子に対する所有権移転登記がされている(以下「本件登記(4)」という。)。

2  本件において、被上告人は、上告人増田浩志に対し、本件不動産(1)(2)については、本件登記(1)(2)を、昭和二七年一月二四日相続を原因とする卓夫の持分を四分の三、被上告人の持分を四分の一とする所有権移転登記及び平成五年三月四日相続を原因とする卓夫から上告人増田浩志への持分全部移転登記に、本件不動産(3)については、本件登記(3)を、卓夫の持分を四分の三、被上告人の持分を四分の一とする所有権保存登記及び平成五年三月四日相続を原因とする卓夫から上告人増田浩志への持分全部移転登記に、それぞれ改めるとの更正登記手続をするよう求め、上告人大澤朋子に対し、本件不動産(4)について、本件登記(4)を、昭和二七年一月二四日相続を原因とする卓夫の持分を四分の三、被上告人の持分を四分の一とする所有権移転登記及び平成五年三月四日相続を原因とする卓夫から上告人大澤朋子への持分全部移転登記に改めるとの更正登記手続をするよう求めた。

これに対し、上告人らは、本件不動産(1)ないし(4)につき卓夫の単独所有とする旨の遺産分割協議が成立し、又は取得時効が完成した旨主張したが、原審は、右主張はいずれも認められないとして、右各不動産についての前記更正登記手続請求を認容した。

3  しかしながら、更正登記は、錯誤又は遺漏のため登記と実体関係の間に原始的な不一致がある場合に、その不一致を解消させるべく既存登記の内容の一部を訂正補充する目的をもってされる登記であり、更正の前後を通じて登記としての同一性がある場合に限り認められるものであるところ、前記事実関係の下においては、本件不動産(1)ないし(4)については、本件登記(1)ないし(4)と被上告人が求める更正登記手続による更正後の登記との間に同一性がなく、右更正登記手続をすることはできないと解すべきである。けだし、本件登記(1)ないし(3)の登記名義人は上告人増田浩志であり、本件登記(4)の登記名義人は上告人大澤朋子であるのに対し、被上告人が求める更正登記手続は、これにより一旦登記名義人をいずれも卓夫及び被上告人とするものである上、一個の登記を二個の登記に更正するものであって、登記名義人及び登記の個数の点において登記としての同一性を欠くからである。

4  ところで、記録によれば、本件において、被上告人は、登記簿上は上告人増田浩志又は同大澤朋子の単独所有に係るものとして権利関係が表示されている本件不動産(1)ないし(4)につき、被上告人の現在の持分四分の一が表示されるよう是正を求めているものにほかならないのであって、その請求が意図するところは、本件不動産(1)(2)(4)については、被上告人の持分を四分の一とし、真正な登記名義の回復を原因とする所有権一部移転登記手続を求めており、本件不動産(3)については、本件登記(3)を上告人増田浩志の持分を四分の三、被上告人の持分を四分の一とする所有権保存登記に更正登記手続をすることを求めていると解することができ、被上告人の請求は、右の趣旨のものとして認容すべきである。

三  したがって、原判決中、本件不動産(1)ないし(4)についての更正登記手続請求に関する部分は、主文第一項に記載のとおり変更することとし、上告人増田みさの上告並びに同増田浩志及び同大澤朋子のその余の上告を棄却すべきである。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤井正雄 裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友 裁判官大出峻郎)

上告代理人佐久間信司の上告理由

第二審判決には民事訴訟法第三一二条第二項第六号の理由不備の違法が存する。

一、上告人は、第二審判決が第一審判決を変更し、上告人の自宅の土地建物(第二審判決添付別紙物件目録(二)10記載の建物並びに同目録(一)1及び同目録(二)1各記載の土地)につき、昭和五二年頃の志やう、被上告人、美枝子及び笑子による印鑑証明書が添付された相続分なき証明書の卓夫への交付は、源吾の遺産の一部たるこれら不動産を卓夫が取得する旨の一部遺産分割協議の趣旨でなされたと推認し(第二審判決一六頁から一七頁)、卓夫が源吾の遺産につき単独相続する旨の一部分割協議が成立したことを認定したこと自体は、これを高く評価するものである。

二、しかし、第二審判決が昭和五二年頃の一部遺産分割協議の成立を認めたのであれば、その後の平成元年の登記も一部遺産分割協議の成立を認定するべきことが当然である。第二審判決は、平成元年の登記に関し、卓夫が本件不動産を単独相続する旨の遺産分割協議が存したと推認することはできない(第二審判決二一頁から二二頁)とのみ判示し、平成元年三月一五日付けで卓夫に所有権移転ないし所有権保存の各登記手続がなされている四筆の土地(第二審判決添付別紙物件目録(一)2、3及び同目録(二)2、3各記載の土地)につき、平成元年頃の一部遺産分割協議の成立に関しては何らの判断もしていない。上告人は、平成元年の登記は本件不動産につき卓夫が単独相続する旨の遺産分割協議が成立したことを推認する重要な間接事実である旨主張しているのであるから、もしその主張が容れられない場合にはその縮小認定であるところの、平成元年頃に前記四筆の土地に関し一部遺産分割協議の成立を主張する可能性が高いと容易に推測できるのであるから、第二審裁判所としては当然にその旨上告人に釈明する義務があったものと言うべきである。第二審判決は、上告人らに対し昭和五二年頃の登記の件については一部遺産分割協議の成立を主張する趣旨か否かを釈明したのであるから、平成元年の登記の件についても同様に釈明を求める義務があった。にもかかわらず第二審判決は、平成元年の登記については漫然と残る不動産全部についての単独相続の有無のみしか判断していない。この点の第二審裁判所の釈明義務違反は審理不尽となるものであって、第二審判決には理由不備の違法がある。

三、上告人は、昭和五二年、昭和五五年、平成元年と三度にも渡って、被上告人、美枝子及び笑子らが増田源吾、志やう、かねら被相続人の所有する不動産に関し、相続分なき証明書と印鑑証明書とを卓夫に渡していることは、本件不動産を卓夫が単独相続する旨遺産分割協議が成立したことを強く推認させるものと主張していた。三回の各登記手続の件だけをばらばらに問題とするのではなく、被上告人ら相続人が事実上の跡取りである卓夫の求めに応じて三度も卓夫に本件不動産の単独相続の登記を経由するのに必要な書面を交付している点を全体的に捉えて、遺産分割協議の成否を論ずる視点が全く欠落している。このような三度にも渡って、被上告人らが卓夫に対し真正な成立が認められる相続分なき証明書や印鑑証明書を交付している点を根拠に、本件不動産を卓夫が単独相続する旨の遺産分割協議が成立したことを認めるべきである旨、上告人は一審、二審を通じて主張しているところである。

にもかかわらず第二審判決がこのような全体的な観点からの考察をすることなく、全部遺産分割協議の成立を否定した点は理由不備の違法が存する。

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